○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子= ○
= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =
◇◆ ラングホブデをあとにして = 1/3 = ◇◆
3週間滞在したラングホブデの雪鳥沢小屋。 おそらく今日が、最後の夜になる。 明日には荷物をすべて撤収して、昭和基地のそばに接岸中のしらせへいったん戻り、一泊する。採取した試料をしらせに置き、新たに食糧補給をしたのちに、別の露岩域に入るためだ。
午後8時。 いつも通り、昭和基地と無線での定時交信が始まった。 昭和基地からの気象情報によると、今日の午後から天気が荒れ始める予報だった。 なんだか信じられない。 驚くほど平和で、とにかく穏やかな空気が流れている。 天候も、今のところ崩れる気配がまったくない。
明日、天候がよければ、これをすべてヘリコプターまで運び、積みこまなければならないのか……3週間前に持ってきた大量の荷物を見ると、3週間前に感じた気持ちと同じように、少し途方に暮れてしまう。
明け方4時頃、徐々に強風が吹き始めてきた。 風速25m/sもの風が、砂と海水を巻き上げながら止まることなく轟々と吹き続け、小屋をガタガタと揺らし、砂粒が壁を打ちつける音が朝まで鳴り響いた。 小屋ごと吹き飛ばされてしまうのではないかと、不安を感じながら浅い眠りが続いた。
朝になるとそのまま強風が吹き荒れてはいたが、間欠的な吹き方に変わってきた。 しかし、止んだかと思うとまた突風が吹くのであまり油断はできない。 決死の思いで重い玄関を開けて外へ出ると、真正面にいつも見える5km先の長頭山がまったく見えない。 荒い岩肌の間を低い雲が生き物のように動いてゆく。
この天候ならば、ヘリコプターが飛び立ってここまでくることはないだろう。 まだ数日、ラングホブデに滞在することになるに違いない、そう思い、外の天候と物資を気にしながら小屋の中でゆっくり過ごした。
夕方になると、あれほど吹き荒れていた風がピタッと止み、急激に天候が回復していった。 夜10時30分、急遽、昭和基地から無線連絡が入った。
「明日、しらせの大型ヘリコプターCH101でラングホブデへ迎えに行く。 ただし、積載できる物資は500kg程度のみ。 さらに、明日を逃すと、CH101はしらせから昭和基地への物資輸送に専念するため、当分の間、そちらへ迎えに行くことはできない」
さて、どうしようか……。 今ここにある物資は、全部で約3500kg。 なんとかして、荷物を厳選し持っていくしか他に方法が見つからなかった。
現在、時刻は夜11時を回っている。 ピックアップは明日の朝8時。 今すぐに、ピックアップに向けた準備を開始しなければ間に合わない。 仲間たちと3名で作業を急いだ。 幸い、今は白夜の季節。 太陽は斜めから差し込み、いつになっても沈むことはない。
作業を開始して5時間、午前4時になると、やっとのことで作業が終わった。 もはやみな、クタクタに疲れた表情をしている。なんとか物資を500kgほどにまとめ、ヘリコプター着陸地点のすぐそばにかためた。
少しホッとしたのか、全員に張りつめていた空気がほどけたように感じた。
物資を全部持っていけないのは本当に困る。 計画していた調査の半分近くができなくなるかもしれないのだ。 しかし、今は他にどうすることもできない。 いつ移動できるかわからない状態で、数日間ないし数週間待つのはきわめて危険だ。 食糧もあと1週間分程度しか残っていないのだ。 それに、南極の夏は極端に短い。 まだまだたくさんやらなければならないことがある。 あと1か月で、南極大陸を離れなければならない私たちは、今ここに残っている場合ではなかったのである。
それよりも、この状況でできるだけのことをやるのが一番よい選択だと、黙々と荷物の準備をしている間に、自分の中で妙に納得し、すっきりしていた。
幸い、1か月後に南極大陸を離れる直前にはCH101を使用できるため、またここに戻ってきて、これから残置していく荷物を取りにくることはできる。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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